東京地方裁判所 平成4年(ワ)22322号
原告
福田憲彦
右訴訟代理人弁護士
黒木美朝
被告
株式会社マッキーインターナショナル
右代表者代表取締役
塚崎松男
右訴訟代理人弁護士
西川三男
藤谷護人
主文
被告の原告に対する平成四年一一月二七日付懲戒解雇の意思表示の無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文と同旨
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 被告は、内外旅行、貿易、幼児、絵本、ファッション等に関する学院経営と教育事業等を目的とする株式会社である。
2 原告は、平成三年一月、被告に雇用され、名古屋支社に勤務した後の同四年八月一六日、福岡支社に勤務し、アシスタントとしてオフィサーの補佐をし、学生募集及び人事管理等を担当していた。
3 ところが、被告は原告に対し、主文第一項掲記の懲戒解雇の意思表示(以下「本件懲戒解雇処分」という。)をしたが、この事由は次のとおりであり、このことが被告の就業規則五一条「次の各号のどれかに該当する場合は、懲戒により解雇する。」三号「勤務に関する手続きその他の届出でを故意に怠ったとき」及び四号「しばしば会社の指示に反し、著しく業務の運営を妨げ、又は職場秩序を乱したとき」に該当するということにある。すなわち、(一)原告は被告に対し、平成三年九月、福岡支社勤務における住居として福岡市西区(住所略)ひさごグリーンビル四〇二号室(以下「本件四〇二号室」という。)との届出でをなした。そこで、被告は原告に対し、住宅補助費として一七万円、家賃共益費として同年九月ないし一一月まで各月四万九五〇〇円、合計三一万八五〇〇円を各支給した。ところが、原告の届出でた右住居は虚偽であり、原告は、真実は被告が賃借しオフィサー佐野實(以下「佐野オフィサー」という。)に提供していた社宅である右ひさごグリーンビルの五〇二号室(以下「本件五〇二号室」という。)に居住しており、右住宅補助費と家賃共益費を詐取した。
(二) 原告は、平成三年九月、理事長決裁事項となっていた福岡校用に作成したテレビコマーシャルを理事長決裁を得ることなく部下の大竹に指示して放映させ、変更制作費四〇万円、放映料八〇万円を支出させ、被告に同額の損害を与えた。
二 争点
本件懲戒解雇処分の有効性にある。
原告は、本件懲戒解雇処分事由の存在を争い、仮にこの処分事由が存したとしても本件懲戒解雇処分は懲戒権の濫用で無効であると主張する。そして、本件懲戒解雇処分事由について次の通り認否・反論する。すなわち、
(一) (一)の事由のうち、住宅補助費と家賃共益費とを詐取したとの点は否認し、その余の点は認める。
原告が本件五〇二号室に入居したのは佐野オフィサーの指示によるのであり、後任のオフィサーになった場合には明渡すこととなっていたので、この場合に備えて住宅補助費と家賃共益費とを受領していた(但し、原告は佐野オフィサーに一か月五万円を家賃として支払っていた。)。
(二) (二)の事由のうち、大竹が原告の部下であったこと、原告が大竹に指示して (ママ)本件テレビコマーシャルを放映させたことは否認する。
原告は、理事長が本件テレビコマーシャル放映を不許可としたので、この放映を中止させている。
第三争点に対する判断
一 本件懲戒解雇処分事由の存否について
1 本件懲戒処分事由(一)について
原告が被告から被告主張の住宅補助費と家賃共益費の支給を受けたことが詐取に該るか否かの点を除き争いがない。
証拠(<証拠・人証略>)によると、次の事実を認めることができる。
福岡支社の責任者であった佐野オフィサーは、平成三年一月ころ、福岡校開校準備のためオフィサー三木和司(以下「三木オフィサー」という。)と共に福岡市に転任したが、当時のオフィサーは右三木であって、佐野は同人の部下でオフィサーの資格を有していなかったため、被告負担の社宅の提供を受けることができなかった。そこで、佐野は、賃貸住宅を自費で賃借して居住していたところ、三木オフィサーが同年一〇月に転出し、同人の後任に佐野が就任したので、佐野は三木オフィサーが社宅として居住していた本件五〇二号室に居住することができるようになった。しかし、佐野は、本件五〇二号室に移住する時期として平成四年夏ころを予定していたところ、原告が平成四年八月一六日名古屋支社から福岡支社に転任となったので、居住している賃借住宅と本件五〇二号室との賃借期間がいずれも同年末までであったことから、それまでの間、自己の裁量権限で原告を取り合えず本件五〇二号室に入居させることを考え、原告に対し、本件五〇二号室に居住することを指示した。そして、佐野は被告に対し、原告の住居として本件五〇二号室の届出でをしたところ、被告から同室はオフィサーでなければ入居できない旨の注意をうけたので、改めて同室には佐野が居住していることとして、原告の住居として本件四〇二号室の虚偽の届出でをなした。このようなことから、原告は、本件五〇二号室に居住するようになったのであるが、被告に対しては、交通手当の支給申請書類に本件五〇二号室に居住している旨の虚偽の届出でをなした。このようなことから、原告は被告から本来社宅に入居した場合には支給されることのない住宅補助費として一七万円の支給を受けたほか、被告は賃貸人に対し、家賃共益費として同年九月ないし一一月までの賃料各月四万九五〇〇円、合計三一万八五〇〇円の支払をなした。
2 本件懲戒解雇処分事由(二)について
本件懲戒解雇処分事由(二)の、原告が福岡校用に作成したテレビコマーシャルを部下の大竹に指示して放映させ、被告に(ママ)主張する費用を支出させた、との点については、これに副ったかの如き(証拠・人証略)は原告本人尋問の結果と対比してにわかには信用することができず、他にこの点を認めるに足りる証拠はない。
二 本件懲戒解雇処分の効力について
本件懲戒解雇処分事由(二)は、これを認めるに足りる証拠はないから、これを本件懲戒解雇処分事由として考慮することはできない。
そこで、本件懲戒解雇処分事由(一)についてみるに、前記認定事実によると、原告は被告に対し、福岡支社に転任した際、真実は入居資格のないことから入居できない社宅である本件五〇二号室に入居していたにもかかわらず、これを秘して、交通手当の支給申請書類に本件四〇二号室に入居している旨の虚偽の届出でをなし、本来支給を受けることのできない住宅補助費一七万円の支給を受けたほか、本件五〇二号室に居住して家賃三か月分三一万八五〇〇円の利益を受けたというのである。
してみると、原告の右行為は就業規則五一条三号及び四号に一応該当するということができる。
しかし、原告が本件五〇二号室に居住するようになったのは上司である佐野オフィサーの指示によるというのであり、虚偽の住居届出でも佐野オフィサーが独自の判断でなしたのであり、原告の交通手当支給申請書類に本件四〇二号室に居住している旨の届出でをなしたのも佐野オフィサーの指示によるというのである。
このようにみてくると、原告の住居についての虚偽届出で及びこれによる住居費の受領、本件五〇二号室の無断利用は軽視できないが、これらは上司である佐野オフィサーの指示ないしこの結果によるのであるから、この責任の多くは佐野オフィサーにもあるということができ、これ故に佐野オフィサーは責任をとって退職している(<人証略>)のである。
以上の諸点に、被告には原告に対する措置として他に選択の余地がなかったわけではなかったことを考慮すると、被告の選択した本件懲戒解雇処分は、些か苛酷に過ぎ、懲戒権の濫用と評されても止むを得ない。
よって、本件懲戒解雇処分は、その効力がない。
(裁判官 林豊)